羽根雲

■羽根雲

    とても冷え込んだ冬の朝、図書館の階段を登っていると足下に陽がさしてきた。

    見上げるとふかい青空の天頂に向かって、大きな羽根ペンのような雲がまっすぐ伸びている。

 「おおー・・・」足を止めて見入ってしまった。

   こんな巨大なペンでどんな物語を青空に描こうというのか!

   ボクは自分の小ささを思う。それから青空の中に隠れているペンを持った巨大な手を思う。

   ゴヤの「巨人」や白土三平の「カムイ」を思い浮かべるが、それとも少し違う。あれは人間の業や愚かさや悪徳の背景を持つが、この羽根ペンを持つものはそうした人間界の現実とは離れたところで悠々と何かを描いているのではないか?  

   ボクらの生きている基準とは離れたところであるがままに存在し活動しているもの。何だろう?

   階段を登りきり、図書館の大きなガラス扉の前に立つとはを落とした木立が青空を背景に映っている。それを見ていると、不意にジブリの「もののけ姫」にでてくる「シシ神」が浮かんできた。

   「そうなんだよな、俺たちのちっぽけな時間とはかけ離れた時間/場所で描き続けられている物語があるんだよなぁ」とボクはみょうに納得する。

    それがどんな物語なのかは全く分からないけれど、なんとなく感覚的には分かるような気もする。それはフェースofワンダーの仲間たちが教えてくれているものなんだろうと確信しているからかもしれない。

   仲間たちはいつだって、ゴヤの「巨人」や白土三平の「カムイ」 になるし、「もののけ姫」の「こだま』になれる。やっぱり、それってすごいことなんだとあらためて思う。

   つい先日、ボクは仲間たちに「これから私はヨーダになる。あと、800年生きることにした」と宣言したのだけれど、それは仲間たちに「こんな巨大なペンで一緒にどこにもない大きな物語を描いていこう!どこにもない時間を生きていこう!」と宣言したことなのかもしれない。

    もちろん、そんな器量が自分にあるかといえばもちろんないのだけれど、でもそこに向かってまっすぐ生きてていこうと思った。